うなぎの世界

日本ウナギの分布と産卵場

一生一度の産卵

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日本鰻の産卵場(松井原図)
ワクアミ区域が産卵場

○下り鰻採集地点
●仔魚(レプトセファラス)採集地点

 親鰻が産卵場となる高水温高塩分の深海の中層に長旅をして、ようやく到着し、産卵を終えると、親鰻はその一生を終る。

 ニホンウナギの産卵場は長い間不明であり、いろいろな仮説が発表されたが、松井魁博士が昭和27年琉球海溝説を最初に発表した。この説は当初、一部の学者や研究者では認めようとしなかったが、幾多の失敗をかさねた調査結果のすえ、昭和36年から昭和48年にかけての仔魚採集に成功して、この推定が証明され、決定的となったのである。その産卵場は、北緯20度以北から28度以南、西側は沖縄列島、東側は小笠原列島、東経145度付近で囲まれた海域の可能性があるが、その海域のうちで、台湾東海岸から沖縄にかけて存在する琉球海溝を含めて、北大東島、南大東島を経て、ラサ島を結び、北緯20度を南限とする、ほぼ長楕円形の海域が最有力であるという説を、仔魚の採集によって証明したものである。

 世界の産卵場を数多く発見したシュミット博士も、台湾周辺や東シナ海を1939年~42年に調査し、日本近海の調査まで希望してきたが、軍事的考慮から日本の反対を受け実施できず、そして、この時は、仔魚を採集することができなかった。

 ヨーロッパ産鰻やインド洋産鰻の産卵場が発見されてから、ニホンウナギだけ不明だったことの理由は次の通りである。

 まず、産業発展が優先して、その基礎となる科学的調査研究が軽視されて、必要経費に対する官民あげての支援がなかったことである。ついで、ニホンウナギの仔魚であるレプトセファラスに関する分類学的研究が遅れたことである。ハモ、アナゴ、ウミヘビ、ウツボなど無足類に属する魚たちはレプトセファラスの時代を経るのだが、この分類研究が進展していなかった。

 最後に、この海域は冬季、季節風のため長期間停船調査ができない。などがあげられる。

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ウナギの成長過程

日本鰻の仔魚レプトセファラス(全長58mm)

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(松井 魁 提供)

 鰻の産卵期間は、早春から夏の中ごろまでの比較的長期間にわたっているようである。 産卵とふ化は、水深300~500mの中層で、その中層は水温が16~17℃、塩分量が35%以上の親魚や卵にとって最良の環境で行われる。

 1尾の雌鰻は、約300~700万粒の分離性の浮遊卵を産卵する。これは深海の中層を浮遊しながら、ふ化をするため、決して海底には産卵しない。

 卵の形は、球形で、その値は1~1.3mm内外であり、透明で少し乳白色を帯びている。昭和48年(1973)に、世界で初めて、鰻のふ化に成功した故山本喜一郎博士らの実験によると、水温で23℃では38時間で受精後ふ化する。

 ふ化した仔魚の大きさは約3mmであるが1週間後に6mmに成長する。ふ化した仔魚は直ちに表層に向かって上昇し、水深100~300mの中層で最も多く採集される。

 さらに成長すると、水深30mにまで上昇してくる。昼間は30m層を、夜間は表層に浮かび、いわゆる昼夜交替の上下移動をしながら、表層流によって、各方面に分散し各地に接岸しはじめるのである。

 卵からふ化した仔魚が、親とは似ても似つかぬ無色透明のヤナギの広葉のような形で育ち、海中にただよっている。

 この時期の幼魚をレプトセファラスという。親もレプトセファラスも海流に影響されて長旅をしているのである。レプトセファラスの体は、たいへん軽く、筋肉や骨も薄弱で、体内に多量の水を貯えて比重を小さくする構造である。

 ですから、自分で運動しなくても体は浮き、変態のときには、余分の水を放出すると同時に骨格や筋肉が発達して、体が著しく縮小し、比重は大きくなる。レプトセファラスは旅が終るとウナギ型に変わる。ヨーロッパ産鰻は、ふ化後3年がかりでヨーロッパ大陸に達し、河をのぼりはじめる。その間の成長度は、6月の測定で、1年目は25mm、2年目で53mmのレトセファラス時代,3年目の75mmは変態したシラスウナギである。

 アメリカ産鰻は、ヨーロッパ産鰻と、ほぼ同一海域に産卵場を持つものであるのだが、産卵場からの距離と海流の速さの差異で1年以内に沿岸に接近することができる。

 ニホンウナギはアメリカ産鰻と同じで、1年以内に産卵場から沿岸に接近して河を昇る。鰻の仔魚は前にも述べたように自力で泳ぐというよりも、産卵場から沿岸までの距離を海流の速さに任せて泳いでいるわけである。

■シラスウナギ

 沿岸に接近した仔魚は、水深200m以内の海底で秋季に変態してシラスウナギとなる。このように、いかにも海流に身を任せ漂白の旅を続ける稚魚はその途中で外敵に食われてしまうことが多い。

 ウナギやボラ(マボラ)は比較的効率よく旅をするほうであるが、実際に産卵場から目的地まで到着するのは、全体の何%なのかは不明である。

 魚はこのように稚魚時代に外敵に食べられたり、病気になって死んでしまうことを考えて、きわめて多くの卵を産むのである。別表にもあるように、のんびりやの代名詞にもなっているマンボウは3憶、ウナギでは760万、マグロでは100万以上という卵を産卵し、その不足を補うのである。つまり、産卵数の多い魚ほど、その子孫の損耗が多いといえる。したがって、親が子を保育する習性をもっている魚では、子孫の損耗が少ないため産卵数も少ないことが分かる。大自然の造化の妙がうかがわれて面白い。

産卵の状態と卵数
魚 類 産卵の状態 卵 数 研究者
マンボウ 大洋を浮遊 300,000,000 カイル
ウナギ 大洋を浮遊 7,600,000 松井
マグロ 大洋を浮遊 1,000,000以上 中村(広)
マサバ 沿岸海表を浮遊 360,000~450,000 笠原・伊東
マイワシ 沿岸海表を浮遊 26,400~100,000 山中(外)
ウグイ 淡水で産卵 10,000~15,000 狩野
サケ 川上の小石の間に放卵 3,500 水産庁
ヒメハゼ 海底の貝殻内に産卵 3,000~9,000 中村
テンジクダイ 口の中で卵を保護 1,500~1,200 山田
ミナミトミウオ 巣を作って産卵 70~150 小林
バラタナゴ 淡水貝の排水孔産卵 40~120 中村(守)
タツノオトシゴ 保育袋で卵を保護 50~90 三谷

(河出書房新社刊自然読本「魚」末広恭雄の頁)

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